「やっぱティアニス姫様っていいよなー。王族だからってエラぶってなくて!」

 後方から少々興奮気味な話し声が近づいてきた。あの威勢のよさは、アルスか。

「だってさ~、家臣なんかいっぱいいるのに隊員の名前全部覚えてて声かけてくれたんだぜ! すごくねぇ!?」

「少々おてんばなところが玉に傷だけどな」

 落ち着いた中音声が冷静に返す。これは、ベンだな。

「わかってないなぁ、ベンは。姫様はそこがいいんじゃないか!」

「隊員に腕試しするのはやめて頂きたいものだ。怪我でもさせたら、こちらの首が飛ぶ」

「あ……オレ、ケガさせちゃったことある……」

「よくおとがめ受けなかったな」

「姫様が『自分から仕掛けたことだから』って、オレがやったこと周りに言わないでいてくれたんだ」

 今、周りに丸聞こえだぞ、おい。
 だが、そんなのはお構いなしで馬より鼻息を荒くして熱弁を振るう。

「オレ、一生この姫様についていく! って思ったぜ!!」

 まあこのぶんだと、俺に反感を持っていても任務を放棄する心配はなさそうだ。

「でもさ~、“闇姫(やみひめ)”様も護ることになるなんてなぁ!」

「アルス、あまり大きな声で言うな」

 突然変わった話題に声を潜めてたしなめるベン。

 ──“闇姫”?

 疑問の視線をかたわらのレガートに投げかけた。

「ああ。エリーゼ姫の通称だよ。ティアニス姫が“空色の姫”って呼ばれてるみたいにね」

 正式には“闇色の姫”。

 確かに空色の姫と対をなすような呼称だが……