「色が見えない──それが、わたくしの障碍よ」

 言いにくそうにしていたティアニス王女に代わり、本人があっさりと口にした。

「色、が……?」

 紅い瞳は、その鮮やかさに反して全ての色を映さない──灰色の世界。

 特に太陽光が強い晴天の下では視界が白っぽくなって目がくらむのだとか。日傘を差して人に誘導してもらいながら歩くだけで精いっぱいという。

「不便だな」

 つい正直な感想を漏らしてしまった。

「隊長、失礼ですよ」

「そのかわり、夜は平気だけどね」

 物言いをレガートにとがめられることもすっかり恒例となったが、エリーゼ姫は全く気に留めていない素振りで返した。

 聞けば、視力に問題は全くないらしい。白黒の視界に慣れているせいか、わずかな星明かりしか届かない夜のほうが活動しやすいのだ。

 要は、『非常に夜目(よめ)()く』のだと。

「そういう事情だから、なるべく私やシレネがついてるけど昼間は特に気をつけてあげてほしいの」

 秘密を打ち明けるのは仕える者に対する信頼の証だ。
 主君の信頼には絶対の忠誠をもって応えるのが騎士。
 俺たちは誓いを立てるときと同じ姿勢で声をそろえて返した。

「了解した」
「かしこまりました」

「ありがとう。
 ──こちらが伝えることは以上よ。なにか質問はある?」

 堅苦しい話は一端区切り、王女が明るい口調で問いかける。
 すかさず挙手をして

「なんでもいいのか?」

「ええ、なに?」