「国王補佐代理の──」
「エリーゼ=シュヴァルツです」

 王女の言葉を引き継ぎ自ら名乗った人物には見覚えがあった。

 いつかの夜に出会った──妖艶な美少女。

 幼さに似合わぬ妖しい美貌に、隊員は一瞬どよめく。いや、どよめいた理由の半分は、藍の髪のせいか。

「彼女は、国王補佐を務めるシュヴァルツ大公の孫娘。私の再従妹(はとこ)よ。
 大公の後継ぎとして勉強するために公務についてくることになったわ。まだ専属の親衛隊がいないから、エリーゼもいっしょに護衛してほしいの」

「みなさん、よろしくおねがいします」

 漆黒のレースが広がるスカートを摘まんで白い澄ました顔でお辞儀(じぎ)した。

 再従妹ということは、兄弟姉妹がいないティアニス王女の妹分か。つまりは、正統な第二王位継承者。
 この年ごろの子供にしては異様なまでの落ち着きと洗練された立ち居振る舞いは、王位継承者ゆえと考えれば納得がいく。

 ティアニス王女がよく晴れた青空のような(まばゆ)い存在なら、エリーゼ姫は対照的な藍色の星空だ。静かで控えめだが確かにそこで輝いている神秘的なオーラを秘めていた。

「リュート、レガート。前へ!」

 王女に促され、俺とレガートは立ち上がって二人の姫に歩み寄る。

「紹介するわね、エリーゼ。彼らが私の親衛隊長と副隊長よ」

「空姫親衛隊長、リュート=グレイだ」

「お初にお目にかかります、麗しのエリーゼ姫。同じく空姫親衛隊の副隊長を務めております。レガート=グランヴィオールと申します」

 簡潔に名乗った俺とは違い、レガートは貴公子のそれらしいキザな台詞で挨拶した。胸の前で腕を折り曲げて礼をするだけで、どうしてこうも華麗に見えるのか。
 ある意味、才能だな。

「はじめまして。……こちらの彼は、はじめてじゃないけれど」

 小さな少女は鮮やかな血色の瞳を迷わず俺のほうへ向けた。