「本日より二泊三日、レグロアの町を視察します。先日、不幸にも魔族に襲われた復興途中の被災地です。みんなには道中と視察中の護衛をお願いします」

 レグロアへの道程(どうてい)は馬車で半日ほど掛かる。一日目は移動、二日目に視察、三日目に帰還する予定だ。

 魔族討伐隊が要請を受けていたが、町を襲った残党は行方不明のまま。再度襲われたという報告はなく別の土地へ逃亡した可能性が高いが、油断はできない。
 心して()からねば、と気を引き締めた。

 ティアニス王女はガッツポーズで補足する。

「でも、ムリはしないで。知ってのとおり私は剣をあつかえます。『攻撃は最大の防御』というし、もしものときは私もみんなといっしょに戦うつもりです!」

「…………」

 いや、だから、俺たちの仕事を奪うなよ。
 相変わらずのジャジャ馬っぷりに、内心で苦笑いしているのはきっと俺だけじゃない。

 剣を振るうのは諦めたのかもしれないと思っていたが、甘かった。砂糖菓子並みに甘かった。

 俺は甘い物は食わないが。

 最近ずっと修行に来なかったのは、視察の準備で忙しくて時間を取れなかった、というのが本当のところか。修行は周囲に隠していたから誰かに言伝(ことづて)ることもできなかったのだろう。

 とどのつまり、俺の言葉は彼女にとってなんの意味もなさなかったということだ。

 ……ここ数日の俺のシリアスを返せ、このジャジャ馬姫。

「私のほかに、もう一人、新しく公務に参加する人を紹介します。公の場に出ることがなかったから初めて会う人も多いと思うけれど」

 と、振り返って手招きする。柱の向こうから小さな黒い影が現れた。