振り返ると、あごに立派な白髭(しらひげ)をたくわえた黒服の男性が一直線に向かってくる。

「貴方は……ダリウス殿!」

 名を呼んだ瞬間、くしゃっと顔中にしわを寄せて破顔(はがん)した。

「おお、おお、リュート。久しぶりじゃな。大きゅうなったのぅ」

「はい。えと、ご……ご無沙汰(ぶさた)、しています」

 親しげに笑いかけてきたその人に、慣れない敬語で答える。

「最後に会ったのはいつだったかの?」

養父(ちち)の葬儀……以来かと」

「そうじゃった、そうじゃった! 立派になったのぅ。ゆっくり話をする時間も取れずに、すまなかったの」

「いえ、こちらこそ」

 彼は、俺がいた孤児院によく寄付をしてくれていて、そのときからの知り合いだ。養父に引き取られてからも時々家を訪ねて来てくれた。

 高齢のせいもあってか養父が亡くなった後は疎遠になったが、時季挨拶の手紙はもらっていて健在であることは知っていた。

 それでも騎士に就任した日、顔合わせでダリウス殿を見かけたときは嬉しかった。そのときは場の雰囲気もあり、挨拶程度で済ませて特別何か話すことはなかったが。
 今、やっと、五年振りに言葉を交わしたのだ。