「そうだな。この勝負……引き分けだ」
「ベン!?」

「あの男の剣をよく見ろ、アルス」
「なっ!?」

 ベンが促した先──俺の剣もまた、レガートの心の臓を貫く紙一重のところで止まっていた。防御は追いつかないと悟った瞬間、相討ち覚悟で放った一閃。

「君……強いね」

「ああ……お前もな」

 互いに刃を突きつけたまま、飽くまで落ち着き払って言葉を交わし合う。
 やがて、どちらからともなく剣を下ろした。

「君の弱点は左だね」

「何?」

 きらびやかな剣を端正な鞘にゆっくりと納めながら、語る。

「君にとって右眼の死角は弱点じゃない。不利になる要素を利点に変えるほど鍛え上げた腕は大したものだ。
 けど、そのせいで右側の気配に敏感すぎるんだ。わずかな気配でも無意識に反応してしまうから、その一瞬だけ、左に隙が生じる」

 なるほど。それで右と見せかけて左を狙ったわけか。

「今まで死角の逆を狙う者なんていなかったんじゃないかな?」

 素直にうなずいた。正直、自分にそんな弱点があるなんて初めて知った。それを見抜くとは……