(これほどとはな……)

 眼光をゆるめぬまま小さく感嘆の息を漏らす。
 隊長候補だったと聞いてはいたが、そんな程度で収まる強さではないだろう。恐らく、団長・副団長クラスの腕だ。

 自分が負けているとは思わない。だが、同等に渡り合える者と会ったのは、フェンネルと、このレガートで二人目だった。

「……君になら、本気を出しても大丈夫そうだ」

 氷の微笑が沈黙を破った。
 俺も薄く笑う。

「こっちの台詞だ」

 氷の笑みは融け、瞳に冷徹な光が瞬いた。

「なら……遠慮はしない!」

 死角に神速剣を放つ!

(無駄だ!)

 思うより早く右に反応した──
──刹那、白銀の光が屈折して俺は空を斬る。

 瞬間的に理解した。
 彼の真の狙いは

 ──『左』だ!!

「……っ!」

 左の首筋にヒヤリとした感触が伝わる。
 レガートの剣が、俺の首を切断する紙一重のところでピタリと止まった。

 死角への攻撃がフェイントだと理解したときには、すでに遅かった。彼の神速に防御は追いつかなかった。

「やったぜ、さすがレガート! 勝負あったな!」

 指をパチンと鳴らしてアルスが歓喜の声を上げた。
 対称的にベンは静かにうなずいてゆっくりと口を開いた。