「……始め!」

 合図の残響は激しく衝突する金属音に掻き消された!
 空間を斬り裂く剣閃の嵐が鍛練場に吹き荒ぶ。

 その風、あまりに壮絶。
 あまりに苛烈。
 文字通りの、真剣勝負。

 だが、嵐の中心にいる二人──俺とレガートは、互いにまだ小手調べといったところ。

 特にレガートは、その端正な顔に氷の如く冷たくも美しい微笑を浮かべていた。
 しなやかに繰り出される剣裁きは宙に舞う粉雪の如くひらひらと掴みどころがなく、軽やかに翻る体裁きはステップを踏んでいるかのように優雅で無駄がない。

 それはさながら、(つるぎ)(まい)だ。

 鳴り響く剣戟(けんげき)すら、彼の前では拍子を刻む音色に感じられる。時折、刃に白銀の髪が映り、その光が一層動きに優美さをきわ立たせていた。

──美しい銀の剣舞(けんぶ)

 対するは、(うな)る豪風の(ごと)猛々(たけだけ)しさをもって銀の光を()ぎ払い、(みやび)な舞を斬り崩すべく攻め立て火花を飛ばす。

──荒々しい金の剣舞。

 金と銀の光が激しく衝突した直後、一端距離を取った。嵐が止み、静寂が広がる。
 互いに息一つ乱していない。そんな静けさの中で、今度は鋭い眼光をぶつけて無言の闘いを繰り広げた。