「僕が得意とするのは、剣だ。充分、君の相手になると思うよ」

 爽やかに笑って、腰に提(さ)げている剣に少し手を添えて見せる。
 柄と(つば)に端正な装飾が(ほどこ)された、独特な形の片手剣。その見事な造りに目を見張った。

 ──もしや“トレドの剣”か。

 トレドというのは刀剣品質最高のブランド名。トレドで作られた剣は高い装飾性と実用性を兼ね備えた、非常に値打ちのあるものだ。
 流石に伯爵子息ともなれば愛用の剣一つとっても物が違う。

「面白い。真剣でいいか?」

「真剣……いいよ。望むところだ」

 俺の提案に怯むことなくうなずいて、そばの二人に向き直る。

「君たち、手出しは無用だ。いいね?」

「お前に私たちの助けは不要だろ」

「ああ、あの平民上がりにお前の強さを見せつけてやれよ!」

「さあ……そう上手くいくかな」

 そんなやり取りの間に、模造剣から片手半剣に持ち替えた。

 刀身は細身だが長さがあるぶんずっしりと伝わる──真剣の重さ。それが俺の手にはしっくりくる。

 なじんだ重みを手にして湧き上がるのは、おだやかさと、相反する高揚感。荒波が打ち寄せる前の海のように、広く、深く、静かに……闘争心を駆り立てる。抑えきれず、かすかに口角を上げた。

 やはり手合いというものはこうでなくては張り合いがない。

「アルス、ベン。どちらか合図を頼む」

 向かい合い、互いにゆっくりと、剣を抜いた。全ての雑音は掻き消えて、俺たち二人だけが別の空間へ隔離された感覚に囚われる。細い糸がちぎれる寸前のようなピンと張った空気が、妙に心地いい。