黙り込んでしまった私に気付いて、誠さんは慌てて振り向いた。



「…あっ、いやその…俺今腹減ってなくてさっ、後で腹減ったらちゃんと食うから」


そう言うと、着替えを取りに寝室へと消えた。



誠さんは…無理して笑ってた。


私が此処に来たばかりの時、何度も目にしてきた微笑み方だった。

静まり返ったリビングに、隣の部屋で着替える音が響く。




誠さん…

……誠さん……。





ガチャッ

「おわっ!」


誠さんは寝室の扉のすぐ前にいた私に驚いた。


「…び、びっくりした~」


目を見開いたまま心臓に胸を当てて言う。


「もー千夏、驚かせ…」


「誠さん…」


また無理して笑いかける誠さんを、私は真剣な顔で見つめる。



違う…何か…いつもの誠さんじゃない…。



「ど…どうしたんだよ~!そんな怖い顔しちゃって~」


誠さんは変わらず無理して笑顔を作りながら冷蔵庫に向かった。



ガチャッ


「もう先にビール飲んじゃおっかな~。あ、そうだ、千夏も…」


「誠さん」


誠さんはビールを開けかけた手を止めた。


私はゆっくりその背中に近付く。


「…誠さん……何か…変だよ……?」


プシュッ


「な…何が…?別にいつも通りだよ?」


背中を向けたまま明るい声でそう答えると、抱え込んでいるものを飲み干すように缶ビールを口にした。