「……今の、だれ?」

もう少しで
顔を思い出せそうなのに、

どうしても思い出せない。



分かるのは

今のは、
…私の大切な人だということ。

忘れてはいけなかったのに…




必死に思い出そうとすると、


ドクン
心臓が嫌な音をたてた。



――――『ギャハハハ、凜ちゃん?
か…いい…ねぇ。襲っ…ちゃえ』――――



冷や汗が背中を伝う。

「…いや、……いや…いや!」


思い出したくない記憶が、

蘇って来てしまう。





そのとき、

パタパタと足音が近づいてきた。



シャラ

カーテンが開かれる。
あまりにも、
様子がおかしい凜にすぐ爽は気づいた。

「…どうしたの?
顔色がすごく悪いよ?」



「……いや、いや。」


弱々しいその声は"いや"しか発さない。




私が記憶を全て取り戻したら…
それが辛いものだとしたら。


…いやだ!思いだしたくない。



私は首を振った。


様子がおかしい私に爽くんは
何か言っている。


でも、私は
必死に首を振るだけで

声なんて聞こえてない。


さっきの場面がどんどん鮮明になってくる。



大好きな人の笑顔と一緒に。





い や だ 。




けど、次の瞬間、


「…凜ちゃん!」



ふわっと体が体温に包まれる。





「イヤっ……!」

ほぼ無意識のうちに爽くんを
突き飛ばしていた。



…何かが違う。

いつも感じてた。

違和感を…





爽くん、私を救ってくれるのは
あなたじゃない。





私が隣にいてほしいのは、
佐久だけなの。