晴海先輩が開け放したドアから入ってくる風が机の上の参考書をサラサラと撫でていく。

あ……。あった、伊勢物語。筒井筒。

「アッキー、あったよ?筒井筒」

「……ん?あ、俺は前に調べたから」

「え?なんだ。じゃ、教えてくれたらいいじゃん!」

「やだよ」

「……バカ、ケチ」

「あ゛?自分のバカを棚に上げまくって、俺様にバカとはいい度胸じゃねぇか!」

「バーカ、バーカ!……ウギャ!!」

早く読めよ!と顔を参考書に押し付けられた。

「君たちさっきからイチャイチャ、イチャイチャ……。ウザいよ?いてぇ!」

アッキーに足を踏まれた中山の声をBGMに参考書にまた意識を戻す。

“筒井筒は幼なじみが成長し、プロポーズを経て結婚するところから始まります”