「俺の名前が聞こえたんでちょっと覗いてみたんだけどよ?」

ああ、晴海先輩のこの穏やかな口調が返って恐いよ。

「晴海ィ、留年だって?」

高藤が諭吉をポケットにしまいながら真っ直ぐに晴海先輩を見詰め口角を上げる。

すげッ。恐いもの知らずもココまで来ると命知らずだ。

「おお。ムーさん相変わらず、頭かてぇな。なにがなんでも留年って言われてよぉ」

ムーさんもやるなぁ。普通なら、なにがなんでも卒業してもらいたい部類の晴海先輩のハズなのに。

「可哀相だろ?“普通じゃなくて、アホすぎ”だし?パァッと憂さ晴らしさせてやりてぇなって思うだろ?ちょっと前、お前ら俺にお世話になんなかったっけ?」

にこやかな口調で差し出された晴海先輩の手の平。

そこに高藤が『チッ』と舌打ちしながら諭吉を1枚乱暴に乗せた。

「ロクな事考えねぇなぁ、お前らも」

ゲラゲラ笑う晴海先輩は高藤よりも何枚か上手だった。