「…こ…こ、どこ…」


うっすらと、閉ざされていた瞳が現れた。


「有貴…っ」


呼べば、漆黒の瞳が俺の方へと向けられた。


「あれ、流羽…?俺、器具庫の所で倒れて…それから…」

「あの後、すぐに救急車で運ばれて、ずっと意識飛んでたんだぞ?…俺は、運動会終わってすぐにここに来たんだ」


俺は言った。

窓から見える景色はもう、暗く染まっていた。


「だから、ジャージのままなのか…」

「うん」

「運動会、優勝出来た?リレーは、どうなった?」

「え…っと…」


有貴にその質問に、言葉をつまらせた。


「…負けたのか?」

「5点差で2位、だった」

「すげぇじゃん。5点差、惜しかったな」

「俺のせいなんだ。ずっと1位だったのに、リレーで最後の最後に抜かされて、三浦に…。それで、2位になっちまって…」

「順位なんて関係無いよ、流羽…」


そう言って、有貴は柔らかに笑った。


「大事なのは、それに向かってどれだけ努力したか。流羽は、毎日ランニング頑張ったろ?その努力は、1位を取った時の価値にも勝るものだと思うよ」

「そっか、それに向かってどれだけ努力したか…」


もう1度有貴を見ると、瞼がとても重そうで、うとうととしていた。


有貴の意識は戻ったし、声も聞けたし…

俺はそろそろ帰るとしようか。


立ち上がろうとすると、手を強く握り返され、それは叶わなかった。