しばらく黙々と持参した問題集を解いた俺は、一息つけようとシャーペンを机上に投げて、伸びをする。

すると、城崎さんが隣から顔を出して、こんな話題を持ち掛けてきた。


「有貴くんさ、幸村からあの話聞いた?」

「……あの話って?」

「あたしは、ゆーちゃんから聞いたんだけどね、2人別れたんだって…」


どこか寂しげに、城崎さんは言った。


「それ、本当?」

「うん。詳しいことは聞かなかったけど、なんか幸村ね、ずっと他に好きな人がいたみたいだよ?」

「流羽に、他に好きな人が…」


まさかあんなに仲の良かった2人が別れたなんて、信じられない。

けれど香坂さんが言ったのなら、それは事実なのだろう。


「じゃあ、あたしは帰るね。勉強頑張って!」

「うん。じゃあね、城崎さん」


席を立つ城崎さんに、小さく手を振った。


俺はもう少しだけ勉強をするとしよう。

ノートを開き、シャーペンを手に取って握る。

けれど、右手はなかなか動こうとしなかった。


流羽の本当に好きなヤツって…誰なんだろう。


目の前に出された数式ではなくて、頭の中のこの問題を解こうとしているからだ。

答えはきっと、流羽にしかわからないその問題。

解けることがなくても、考えることは出来る。


ねぇ、流羽。

その答え、俺も期待していいのかな?


いつか必ず、流羽の口から告げられることを、信じて。