鏡の前で、何度も自分の姿を確認して、家を出た。

女の子じゃあるまいし、前日の夜から鏡の前で格闘した末、この格好という訳でなない。

今日を皮切りに柚里とのけじめをつける為、あまりだらしなくならないよう気を遣ってからの行動だ。

ジャケットにジーンズでキメたかったところだが、生憎8月、夏の盛り。

柚里がカッコいいと言ってくれたTシャツに、最近買ったお気に入りのキャップを合わせた。


柚里の家までの道のり、然程距離はないが、照り付ける日差しにじわりと汗が滲む。

時折その汗を拭いながら歩を進めれば、香坂と書かれた表札の前。

息をごくりと呑み、勢いよく呼び鈴を鳴らした。

備え付けのカメラをじいっと見つめれば、柚里の声が聞こえてきた。


「すぐに行くから待っててね」


それに二つ返事で答え、壁に凭れながら柚里を待つ。

ふわりと風が吹く。

その風に乗せられて、ずっと好きだった香りが鼻を掠めた。