「……おわ…っ!」


その勢いで、うっかり押される発信ボタン。


「えへへー。兄ちゃん吃驚した?相変わらず良い反応だねー」


いつの間に部屋に入ってきたのだろう、俺の背中を押した手の主は翔だった。

いつもなら可愛いと思えるその無邪気な笑顔が、今だけは憎たらしく見える。


「何すんだよ、翔!背中押してほしいって思ってたけど…こういう意味じゃねぇし!あぁっ、柚里が出たらどうしてくれるんだっ」

「兄ちゃん何言ってるの?あ、もしかしてタイミング悪かった感じ?」

「うるさい!んもう翔なんかあっち行ってろ!」


まったく、翔は暇さえあれば妙に絡んで来るし…

世話の妬ける弟だ。

そんな弟の背中を押し返してやる。

小さく溜め息を零しかけた時だった。


『もしもし、流羽くん…だよね?』


携帯から柚里の愛らしい声が聞こえてきて、慌ててそれを耳に寄せた。


「あっ、もしもし?うん、俺だよ?」


本当に好きなのは有貴な筈なのに、柚里は特別みたいだ。

好き過ぎて好き過ぎて、どんどん膨らんでいった想いは、縮んでいくことを知らない。

その気持ちが恋愛感情かそうでないかの違いで、そういうの引っ括めて、俺は…柚里が好きなんだ。


『で…何かあったの?』

「あの、さ。明日…暇?デート、しない?」