お昼時のピークを越えた海の家には、まばらにお客さんが少しと、カウンターに腕を投げ出すバイト、約1名。
「…つ、疲れた」
眉間に皺を寄せながら、溜め息交じりに呟く有貴。
少し長めの黒髪から覗く額には、うっすらと汗が滲んでいた。
「お疲れ、有貴くん!はい仕事終わりのクリームソーダ!」
クリームソーダを差し出す佳苗の目は、ハートの形をしていて、おまけにソーダの上に乗っかるクリームの量が3割増な気がした。
「あっ…わざわざすみません。いただきますね?」
「どっ、どうぞ!」
クリームソーダに思わず表情を緩めた有貴に、ますますハートが大きくなるのがわかった。
「ねぇ、俺には?」
「あんたは自分のと有貴くんの荷物を持って戻って来れば?」
「……そうですか」
こうべを垂らしながら、とぼとぼとカウンターを後にした。
それにしても佳苗のヤツ、態度があからさまに違いすぎる。
俺だって頑張ったんだぞ。
お疲れのサイダーぐらい欲しかったよ。
別に、佳苗に優しさを求めてるとかそんなんじゃないけどさ…