砂浜に1人残った俺は、さっきまで煩く鳴り響いていた心臓を上からぎゅっと鷲掴んだ。
この感じ、昔、柚里に対して抱いていたのと似ている。
最近その高鳴りを柚里に憶えることは無かったのに、どうして有貴には煩く反応したのだろう。
率直に考えれば、この気持ちは、有貴に恋をしていることになる。
…嘘だ。冗談だろ。
けれど、その気持ちとは裏腹に、俺の思考は、大分前から有貴に独占されていた。
俺も、素直にならなきゃ駄目かな…
心臓を掴んでいた拳を、ぎゅっと握り締める。
俺が本当に好きだったのは、有貴だったんだ。
ずっともやもやしていたこれは、恋心だったんだ。
月明かりに照らされる海に静かに見送られながら、俺は海の家に向かって、ゆっくりと歩き出した。