すっかり陽も落ちて、海が黒く染まった頃。
海の家に、1人のお客さんがやって来た。
「すみません、幸村…流羽くん、いますか?」
「流羽のお友達?」
出て来たのは、昼間忙しそうに焼きそばを焼いていた女の人。
明るく染められた茶色の髪は綺麗で、細く長かった。
「……はい」
「ちょっと待っててね、今呼んでくるから」
彼女はそう言うと、店の奥へと消えてしまった。
入り口の壁に凭れて、流羽を待つ。
静かな砂浜に流れる波の音が心地好い。
「あれ…有貴!?」
それほど時間が経たない内に、その姿が現れた。
「あ、流羽」
にこやかに手を振る有貴。
「こんな時間にどうしたんだよ?三浦は?」
「近くのホテルに泊まるんだ。三浦は今、風呂だから俺が暇で、だから抜け出して来た」
「へ…へぇ…。あ、ここじゃあれだし、中入って話すか?」
そう言って、店内を指差した。
「いや、いいよ。あの…さ砂浜、歩きたい」
「砂浜?おう、そうだな。夜の海も良いもんな!」
じゃあ行くか、と俺は歩き始めた。
「…有貴、歩かねぇの?」
何故か立ち止まったまま、歩き出そうとしない有貴。
「え…っ、あぁごめん」
ハッとした有貴は、小走りで駆け寄った。