グラウンドに映る、普段と違う有貴。
決して口数が多い方とは言えない、割かしクールな有貴は、ユニフォームを着ると別人のようにアツくなる。
無駄の無い確実な守備、力強い打球。
チームメイトからの信頼も厚いと聞く。
暑さも忘れ、有貴の姿に見入った。
気が付けば空はオレンジ色に染まり掛けていて、練習は終わり、部員はバラバラと部室に向かって行く。
「…あっ、ごめん!野球部すげぇカッコよくて、練習最後まで見入っちゃった。暑かったのに、待たせちゃってごめんな…」
ハッとして、柚里に頭を下げた。
どのぐらい時間が経ったのだろう。
柚里は隣で、文句1つ言わずに待っていてくれた。
「ううん、平気だよ。確かに野球部の皆、カッコよかったもんね」
「じゃ、帰るか!」
柚里に向かって手を差し出せば、俺の手は可愛らしい掌に包まれて、夕日と一緒に優しい光が降り注ぐ。
左手に柚里の温もりを感じながら、ゆっくりと歩き出した。