「流羽くんが、好き…」


香坂さんからそう告げられた時の流羽の目には、迷いがあったような気がしたけれど、流羽はこう答えた。


「俺も、好きだ…」


柔和な表情を見せる流羽。

香坂さんは満面の笑みを咲かせ、流羽に抱き着く。


あぁ…2人、両想いなんだ。


俺は、そんな2人のやり取りを見て、理解した。


同性の恋愛なんて、無謀なのは承知の上だった。

でも、流羽を好きな気持ちは誰にも負けない自信があった。

勿論、香坂さんにも。

香坂さんは狡いよ。

流羽がまだ諦めきれてないの知ってて、そうやって横取りしていくんだ。


「俺、柚里のこと絶対幸せにする。…誰よりも幸せにしてみせるよ」


そう言って流羽は、自分の胸に埋められた香坂さんの頭を、そっと撫でる。

そして俺の口からは、思ってもいない言葉が零れた。


「流羽も香坂さんも、おめでとう。…流羽なら香坂さんのこと、本当に幸せにしてくれると思うな」


こんなの大嘘。

ついでに言えば、今の俺の表情も、嘘。

心の中では眉間に深く皺を刻み、ものすごい剣幕になっているに違いない。


「ありがとな、有貴」


さっきまで迷いが見られた流羽だったけれど、今は笑顔だった。


「ううん。つか、俺…邪魔だよな。そろそろ帰るわ。流羽、お大事にな」


俺は、立ち上がって流羽の部屋を出て行った。


心に開いた、大きな穴。

流羽の恋が叶う代わりに、俺の恋は脆くも崩れていくんだ。

俺は、その心の穴を埋める為に、三浦を利用した。