ベッドに横になる傍ら、有貴と市川は床に腰を下ろした。
「馬鹿は風邪を引かないって言うけど、あんま当てにならないね」
市川が嘲笑しながら言う。
「…俺だって風邪ぐらい引くし。つか市川、俺に怒ってないの?」
「怒ってないけど。むしろ幸村のこと心配して来てやったんだけど」
あれから口を聞いていなかったから、俺に怒っているのだとばかり思っていた。
自分の彼女と他の男のあんな状態を見せられたら怒るのが当たり前だと思うのだが…
「市川って変なヤツだな」
「幸村にそう言われるとすげぇムカつく。ま、熱って言っても結構元気そうだったし…俺はもう帰るよ」
「わざわざ来てくれてありがとな…」
ドアノブに手を掛けると、何か思い出したかのように、こちらへと振り向いた。
「俺、柚里ちゃんとはもう別れたよ」
切なげな表情を残し、市川は部屋を後にした。
嘘だろ…?
市川と柚里が別れた?
…まさか、俺のせい?
「流羽、顔が青白いぞ?」
「俺のせいなのかな…市川と柚里が別れたのって」
「人の恋愛なんて知らねぇよ。でもこれは、流羽にとってはチャンスなんじゃないのか?香坂さんが好きなんだろ?」
有貴にそう問い掛けられても、素直に頷くことが出来ない。
こんなことまでして、柚里を自分のモノにしてもいいのだろうか…?
「柚里のことは、好きなんだけど…」
俺は顔を隠すように、毛布を深く被った。
「兄ちゃんに、またお見舞いだよー」
「お邪魔します…」
翔に連れられて、後ろから姿を現したのは、柚里だった。