結局、柚里は早退して、保健室から戻って来た市川とは、言葉を交わすことが無かった。

首筋のキスマークを気にしつつも、なんとか無事に1日を終えることが出来た。


帰宅して、真っ先に自室のベッドに飛び込む。

柚里、熱大丈夫かな。

ふと、柚里のことが頭を過る。

唇に残る、柔らかな髪の感触と、柚里の香り。

同時に思い出すのは、有貴の誕生日の、あのキスの熱だった。


身体が反応してしまったのは、有貴のキスが巧かっただけでは無い。

今思えば、嫌なキスじゃなかった気がする。

何故…?
それはわからないけれど…


いつの間にか、頭の中は、有貴のことでいっぱいになっていた。

首筋の傷をなぞってみる。

有貴は、どうして俺を好きになったのだろう?

俺なんかを好きになっても…辛いだけに決まってる。

なのに何で…


きっと、いくら考えても埒が明かないことだ。

気分転換に技の練習でもしようと、立ち上がる。

…相手は、翔(しょう)でいいか。