土曜日、有貴の誕生日当日。

ここに向かう途中購入したケーキを大事に抱えながら、俺は玄関の呼び鈴を鳴らした。


「有貴、誕生日おめでとうー!はい、有貴の好きなショートケーキ。皆で食えるように、ワンホール買った!」

「マジで!?嬉しいよ流羽。さ、上がって?」

「おう。なんか靴の数、多くね?」


玄関に並べられた靴を見て、そう思った。


「あー…、和馬(かずま)と香坂さんも来てる」


有貴は申し訳なさそうに俺に言う。


確かに、あの日から大分時が過ぎたとは言え、柚里を見ると、あの時の苦い思いが俺の胸を打つ。


「そー…なんだ。ま、人数多い方が楽しいもんな!」

「ごめん…。流羽が来るの知らなくて、城崎さんが誘っちゃったって。さっき城崎さんも知って、流羽に悪いなって言ってたよ」

「そんな…、別に気にしてないし!それにもう2年も前の話だろ?俺はとっくに柚里のことは吹っ切れてるよ?」


俺はそう言って、有貴に笑ってみせた。

吹っ切れてるとは言ったものの、今の言葉に嘘は無いかと問われたら、素直に頷ける自信は無い。


3年になって、クラス替えで柚里と同じクラスになった俺は、無意識に愛おしげな瞳で柚里を見つめているに違いない。

しかし柚里の視線は、いつだって俺じゃなく、その幼馴染みに注がれているのだ。