「はい?」

「久々に見たよ、有貴の笑顔。流羽くん、ありがとう。俺、有貴を悲しませることしか出来なかったから……。だから、これからは流羽くんがさ、たくさん有貴の幸せを増やしてやってほしいな、なんて」

さっきからずっと、お兄さんは笑顔を見せている。

だけどそれはさっきからずっと、切なくて寂しくて。


お兄さんも有貴と同じぐらい苦しんできた筈なのに、2人同時に幸せになることは出来ないのかな……


お兄さんがこの場から去ろうと歩き出した時。

有貴は俺の前ではなく、お兄さんの前にいた。


「どうしたの、有貴」

「俺、兄貴に悲しくさせられた覚えなんか無いよ。辛いことはたくさんあったけど……兄貴は……智兄は、いつも俺の心、暖めてくれた」

「……え?」

「智兄、ありがとう。智兄が俺の兄貴で、ありがとう」


有貴がお兄さんに向かって笑うのは、どれぐらいぶりのことなのだろう。

だけどその笑顔はきっと、昔と何1つ変わっていなくて。


黙って有貴を抱き締めるお兄さんの目は、涙のせいなのだろう……

綺麗に輝いて見えた。