すぐに唇は離されたけれど、俺は驚きのあまり瞬きすら出来ずにいた。
「兄貴……!ふざけんなっ、流羽には手を出すなよ!」
とうとう痺れを切らした有貴がお兄さんに飛び掛かるのを、俺は呆然と見つめることしか出来なくて。
「俺ね、有貴のこと好きだよ」
有貴に胸ぐらを掴まれながら、お兄さんは小さく言った。
有貴を見つめるお兄さんの表情は優しいんだけれど酷く切なく、哀しかった。
その言葉と表情に、黙り込み、俯く有貴。
次第に、お兄さんの胸ぐらにあった右手の力が緩んでいくのが見えた。
「……それだけだよ。有貴のことが好きだから。ただ、それだけ」