ゆっくりと横を見れば、椅子から立ち上がってお兄さんを凝視する有貴の姿。

テーブルの上の拳は、煮え切らない怒りを抑えるかのように、ぎゅっと握られていた。

そしてお兄さんは依然として変わらずに笑みを浮かべ、有貴を見ている。


兄弟の修羅場に、俺なんかがいてもいいのだろうか。

っていうか、俺が言い出しっぺなんだっけ……


「俺の気持ち云々の前に、そう言う有貴の気持ちを聞かせてよ。隠してること、何かあるんじゃないの?」


ほんのわずか、お兄さんの声色が低くなった。

有貴は静かに椅子に座り、言った。


「……兄貴の考えてることがわかんないんだよ。兄貴は一体、何がしたい訳?」


有貴の言葉を聞くと、お兄さんは少し大袈裟に溜め息をつき、そして俺の方をちらりと見た。


「ま、それも追々話すよ。でもさ、俺が有貴に聞きたいのはそういうことじゃないの」

「……じゃあ、何だっていうんだよ」