お兄さんがリビングの方へ吸い込まれて行くのを見届けて、俺は言った。


「有貴……怒ってる?」

「え、別に」


素っ気なく返されてしまった。

質問が悪かっただろうか。

有貴の機嫌が良くはないのは確かなようだけれど。


「ただ……」


靴を揃える俺の後ろで、有貴は言葉を続けた。


「兄貴が流羽を取ったりしたらどうしよう、って思った。だから今の俺、相当不機嫌に見えると思う」


そう言って、有貴は小さく溜め息をついた。


「流羽に怒ってる訳じゃないからさ、気にしないで」

「うん、わかった」


俺が頷くと有貴は柔和な笑みを見せ、お兄さんの待つリビングへと向かった。


今のはつまり、妬きもち……だよな?

そう思うと、表情が緩まずにはいられなかった。


そんな空気を読まない俺の顔に一発喝を入れ、有貴の後ろを追った。