「……んんっ……」


有無を言わさぬ強引な口付けに、身も心も縛られたかのような錯覚に陥る。

足りない酸素を求める俺とは対照的に、智兄は平然と口内を掻き乱していく。


「智兄……いきなり、どうして……」


ようやく唇が離され、肩で息をしながら俺は言った。

だけど智兄は、無言で俺を見つめるだけ。


怖かった。

初めて、智兄を怖いと思った。


暖かみを感じさせない、冷えきった目。

いつもの優しくて暖かな智兄は、そこにいなかった。

今、前にいるのは、俺の知らない智兄。


本当の智兄じゃない。

そう願って、俺はぎゅっと目を瞑った。


真っ暗な世界で感じる、智兄の体温。

身体のありとあらゆる場所を攻められ、その度に襲ってくる快感の波で、頭がどうにかなってしまいそうだった。


俺は声を圧し殺して、それに堪えた。

声を出してしまったら、自分自身に負けてしまうような、そんな気がしたから。

智兄は依然として、俺を犯し続ける。


けれど最中、たった一言だけ発せられた言葉。


「……愛してるよ、……有貴」


甘く切ないこの響きは、夢か現か。

それから目を開けるまでの記憶は、俺に残っていない。