「荷物、俺が持つよ」


俺の肩からひょいと鞄を取り上げる智兄。


「自分で持てるからいいのに…」

「いいのいいの。誕生日なんだし優しくさせてよ」

「でも…」


そんなことしなくたって、智兄はいつも優しいのに。


申し訳無さから顔を俯かせると、ふと額に違和感を感じた。


パッと顔を上げる。

目の前にあるのは、智兄の困った顔。


「…智兄…?」

「有貴は俺の弟なんだから、黙って俺に甘えていればいいんだよ?」

「……ん、わかった」


俺は小さく呟いた。


「ならばよし。ケーキ、楽しみだなぁ!」


智兄はいつものようにくしゃりと笑って、俺の頭を撫でた。


さっき感じた、額への違和感。

その正体はきっと、智兄の唇。

それはとても暖かで、とても優しかった。


西陽を背に受けて、自分の姿が前に細長く映し出される。

隣に並ぶのは、頭1つ分大きな影。

黒く塗り潰されたそれは、どこか安心出来るもので。

見えることの無い顔は、俺に向かって優しく笑い掛けているような、そんな気がした。