「このグローブ、大分使い込んでるみたいだなー」

「智兄のお下がりの奴だよ、それ」

「マジで!?嬉しいなー、まだ使ってくれてたんだ」


嬉しそうに言いながら、しげしげとグローブを眺めている。


「まだ使えるし、グローブは慣れてるのが1番だし。それに、智兄がくれた物だから…」


智兄が野球をする姿に憧れて、俺は野球を始めた。

智兄がリトルリーグを辞める時にくれたこのグローブは、俺の宝物で、勝利のお守り。


「…まったく。可愛いこと言ってくれんじゃん?」

「可愛いなんて言われても、嬉しくないよ…」

「有貴は可愛いっ」


智兄はくしゃりと笑って、額同士を擦り合わせる。

“可愛い”って言われるのは、あまり好きでは無い。


だけど、智兄に言われる“可愛い”だけは別。

そう言う時の智兄は、とってもカッコいいから、だから許せてしまう。


そんなささやかで幸せな毎日は、いつまでも続くと思っていた。

じゃれあって、他愛の無い会話をして、笑って…

だけど、そうはいかなかったんだ。