「ゆーきっ!」


ノックも無しに部屋の扉を開ける人は決まっている。

智兄だ。


「何、智兄。勉強してたんじゃないの?」


天井に向かってボールを投げては、落ちてくるボールをキャッチする。

そんな一人遊びをしている時、部屋に智兄がやって来た。


「いくら受験生になったからって、まだ4月だぞ?勉強はまだまだこれから」


肩をすくめ、余裕の笑みを浮かべる智兄。


「それに」

「それに…?」

「ボールの飛んでいない部屋は、なかなか寂しいもんだなぁって」


今年中3になった智兄は、高校受験を控えている。

よくわからないけれど、高校生になる為には試験を受けなきゃいけないとか。


そんなこともあって、今まで2人で1つの部屋を使っていたのが、春休みから1人1部屋になったんだ。


智兄と1つの部屋で過ごす毎日が楽しかった分、1人部屋になった時は寂しかった。

けれど今は、この1人の空間も楽しめるようになってきた。

智兄には合格して高校生になってもらいたいし、俺は邪魔しちゃ駄目だよね。