ピーンポーン………
客人を知らせる呼び鈴の音が、家中に響き渡る。
「翔、柚里が来たからな、もう家出るぞ!」
「えー、あと少しだけ待って」
洗面所の鏡の前で、翔が髪型を整えている。
かれこれ30分程、ずっとこれだ。
「別に見舞いでちょっと顔出すぐらいなんだから、そんなにキメなくてもいいだろ?」
翔はまだ小学生なのに、随分とませている。
少なくとも俺が翔の歳だった頃は、身なりなど気にする程大人じゃなかった。
「嫌だよ。俺、有貴さんの前ではいつだってカッコよくいたいし」
鏡の中に映る俺を見て、翔は言う。
その気持ちはわかるけど、何もしなくたって翔はカッコいいと思う。
いや、どちらかと言ったら可愛い系統なのだが。
こんな風に見えてしまうのは、兄の贔屓目からなのかもしれない。