「あれっ、兄ちゃん今日出掛けんの?運動会の後だから、てっきり家で休むのかと思ってた」
リビングに顔を出すと、部屋着から普段着に着替えた俺の姿を見るなり、翔がそう言った。
「んー、ちょっと友達の見舞いに行く。つっても、まだ大分時間あるけど」
用意してあった俺の分の朝食に舌鼓を打ちながら言った。
因みに朝食は、卵焼きと昨日の煮物の残り。
煮物は次の日の方が味が染みていて美味しいと、俺は常々に思っている。
「ねぇねぇ、その友達って誰?僕も知ってる人?」
「知ってるも何も、お前の大好きな…ってメールだ」
一旦、会話と箸を止め、携帯を開く。
メールは、有貴にお見舞いに行きたいんだけど、という柚里からのものだった。
それに、じゃあ後で一緒に行こうぜ、と返した。
「で、誰なの?」
翔が質問を続ける。
「何が?」
「入院してる友達」
「あっ、そっか。ごめん」
メールの相手を聞かれたのかと思ってた。
「その友達…有貴だよ」
「え゛っ…!?」
大きく目を見開く翔。
「今、えに濁点が付いてたぞ」
「だってびっくりしちゃって…。なんか、有貴さんって無敵そうなイメージだから…」
「無敵、かぁ…」
心配そうに顔を曇らせる翔に
「後で、一緒に見舞いに行くか?」
と、声を掛けてみた。
「うん、行く!有貴さんが心配だし…」
翔は、神妙な面持ちでそう答えたが、有貴に会える、と、どこか嬉しそうにも感じられた。