「…しっ…!見付かってしまいますよ…」
少年の言葉に、少女も慌てて口元を押さえ周囲を見回した。
「…ごめんなさい。でも私、ここに来るのは初めてで、こんなに綺麗な樹も初めてで…」
今度は小声で。
それでも青い瞳は幸喜に輝き、小さな華奢な体は弾んでいた。
「…僕は、たまに来ているんです。勿論、ここの生徒でも何でもありませんので内緒で、ですよ?見付かったら大変だから、静かにお願いしますね?」
「そうなの?そうね?」
「この樹は、この国に無いはずの樹だと聞きました。特別な力で、この学園だからこそ出来る力で守られていると…」
「…魔術ね?」
少年が頷くと、少女は桃色の花が降る樹を見上げた。
「…いいなぁ。私ね、この学園に通いたいんだけれど父様になかなか許して貰えないの…」
財力が在るがこそ言える台詞。
(…やっぱり。)
其処は少年の暮らす町の中心。
整った道には街路樹が並び、レンガ造りの歴史ある建物がひしめき合う。
その綺麗な町並みは、魔術の栄えた国として他国からの訪問者に溜め息をつかせる。
しかし、
それは町の中心部だけの事。
少年が暮らすのは町外れの寂れた宿屋だった。