少年は茂みから立ち上がると、周囲に目を配りながら少女の元へと歩み寄った。


「…子供?とは失礼ですね。あなたも同じでしょう?」

意地悪く笑うと、少女からは予想外の笑みが溢れた。


「…あら。あはは!子供のくせに随分と大人びた口調で話すのね?」

「………」

それは貴女もだ。
少年はそう口から出そうな言葉を飲み込み、ぎこちない笑顔を返した。

少年の頭の回転は早かった。
自分より少女の方が、きっと身分が上なのだろうと察知していたのだ。
此の年齢にして、世の中を上手に渡っていく術を自然と身に付けていた。


「…秘密にしてくださる?」

少女の上に花びらが降る。

陽の光と桃色に包まれた少女が美しく思えて、大人びた言葉を話す黒髪のあどけない表情から目が離せなかった。


「えぇ、勿論。僕も侵入者なんですよ。だから…」

「あら!ここの学園に通っている生徒かと思ったわ?やっぱり、この樹に惹かれて?ねぇ、この樹は何という種類?」

少年の言葉を遮り、少女は興奮して声を大きくした。

大人びていても所詮は子供の行動か、行動までも大人びているのか、少女と少年の違いは其処だった。

少年は慌てて両手を前に出し、なだめにかかる。