どうやら、少女と少年の目的は同じだった様だ。
少女はあの樹を見上げ、ひらひらと降る桃色の花びらを両手にに受けながら、幸せそうな声を漏らした。


「…わぁ…素敵!こんな桃色の樹、見た事ないわ!」

誰かに向けた言葉なのか、受け取る相手が居るのか。
他の誰が視界に現れるのか、少年は茂みから目を凝らす。

しかし何時までも返事はなく、
少女は一人、鼻唄を歌いながらその場に座り込んだ。


(…一人…なの?あんなに小さい子が?)

自分も同じ年頃だというのに、彼はそう思った。

数え年にして5つか6つ。

一般的に親や大人に連れられて行動する年頃であり、ましては許されぬ場所に一人侵入を試みる事など、そんな事をするのは自分位なのだろうと考えていたのだ。

少年には、親という者が居なかった。
常に一人で行動する事に慣れていたし、そうして生きていくしかなかったのだ。


(…どうしよう…。)

少女は、なかなかこの場を去ろうとはしなかった。


施設の関係者の娘なのか。
侵入者ではなく、許可を得て訪れているのではないか、そう考え直した。

少女の後ろ姿を見る限り、身なりも薄汚れた自分とは違い、裕福な印象を受ける。