花の降る光景だった。


「………」

少年は、桃色の花びらが降る中で大きな樹を見上げていた。
ぽかりと口をしまりなく開き、その美しい光景に安らぎというものを感じていた。


其処は或る施設。
彼はその施設の一員ではなく、本来入る事も許されないが、事あるごとに其処へ忍び込んでいた。

度々訪れていたのだが、施設の中で活用されにくい場所なのか人に発見される事もなく、全く無関係の少年のお気に入りの場所となっていたのだ。


――ガサガサ…

後ろから葉の擦れる音がして、彼は驚いて周囲を見回し手頃な茂みに身を潜める。

此の場所で、彼は他の者に会った試しがない。
ついには見付かってしまったのか、そんな焦りが彼の心に在った。

息を潜め、身を縮め。
此の場所を奪われてしまうかもしれない恐怖と戦いながら、音の主を待った。

ごくりと少年の唾を飲む音。

しかし、現れたのは自分と同じ年頃の小さな少女だった。


(……ぇ?)

目の前に現れた少女もまた侵入者の様に、きょろきょろと周囲を注意深く見回しながら、あの樹の元へ足を進めた。


(…見付かってはいないみたいだ。あの子は誰だろう…)