家族も友達も恋人も
なにもない私には失うものがない。

悲しくはない。
むしろ楽だったりする。


そんな事を考えながら座っていた私の背中に、聞き覚えのない低い、でも素敵な声が掛けられた。


「…?1年生か?…あれ?ここって立ち入り禁止じゃなかったっけ…」

「……誰ですか。立ち入り禁止なら出ていってください。」


天然パーマの黒髪。
だるそうな目を隠したりしている黒ぶち眼鏡。
白衣の下には着崩れした上着のないスーツ。


私はただたんになにも考えず、素直に素敵だと思った。同じ人間として。