「あの時、涙を流すミウに。
ひとり去っていくミウに。
こうやって、抱き締めてやりたかった。
ほんのひとときでも良い。
母親の代わりでも良かった。
ただ、抱き締められるという事がどんなものかを、伝えたかったんだ。」


その心の内から吐露される言葉の波を、わたしは黙ったままそっと聞いていました。


そして寄せ返す波のように、穏やかな口調で皎に告げました。


「行動に移せなかったとしても、貴方の気持ちは美雨さんに伝わっていたのではないかしら。
だから、貴方がこの窓辺を訪れる今夜、空は涙雨を降らさないでいてくれたのよ。」