「何してるの?」


不機嫌そうに向けられた目に、シエナは額に汗を滲ませた。

どんだけ自分は嫌われてるんだ。

そう考えると泣きたくなる。


「別に。夜陰に強制連行されたのよ」


シエナは言いながらいつも思う事を思い出した。

君花の前では女ではないと駄目なのだ。女じゃなければ君花の側には居られない。

アレンと始めた女の振り。今更止めてどうするんだ。男は捨てろ。女になれ


厳しく言い放つその言葉とは裏腹に、男として君花を守る自分の姿がちらついて目を閉じた。


目を閉じたところで状況はなんら変わることはないのに。



「……そう」


君花は目を閉じたシエナから視線を外してベッドから立ち上がった。


「人魚伝説の話し、してほしいの」


君花はいつの間にか一段と暗くなった外を見ながら窓に手をつく。