「おい!弟!待て、待ってくれ!」


授業中だと言う事を無視して声を張る。


前を走る弟が西木の方を肩越しに振り返るが、止まるつもりはないようだ。


「こら!!お前等、授業中だぞ!!」


駆け抜けて、後ろに流れ去っていく教室から教師の声が廊下に響き渡る。


しかしそんなものに逐一こたえる余裕もつもりもない。


彼我の距離が段々と無くなっていく。


当然だと西木は思う。


サッカー部はおろか陸上部を相手にしたって西木の足は遅れを取るどころか圧倒するのだ。


『伝説』の弟だろうと、勝つ自信はある。


いや、勝敗とかではないけれど。


「おい、弟!」


追いつき、横に並び『伝説』の弟に声を掛ける。


「僕はあんたの弟じゃないです」


「そりゃそうだ。俺はお前の名前なんて知らないからな。便宜上そう呼ぶ」


『伝説』の弟は西木を一瞥して小さく舌打ちをした。