「はじめまして。私の名前は『桃東 雷』と言います」


にこやかな挨拶を一つしてから桃東先輩はゆっくりと僕の机に近づいてくる。


歩先に立つクラスメートは恐れるように退いて道を作っていく。


まるでそれはおとぎ話に出てくるモーゼのように。


神々しさは余りにも欠けるけれど。


ゆったりとした歩みのまま、桃東は僕の机に辿り着くとさっきと同じ様に両手を僕の机に置き、ずいと僕に顔を近づける。


「あぁ。訂正を一つ」


「てい、せい?」


「はい。実は私達は『はじめまして』の関係ではないんですよね」


「はい?」


はじめまして。ではない?


実は昔、僕と桃東先輩は遊んだ事のある幼なじみだった。とか?


「一週間前です。覚えてませんか?」