「あぁ~。そうでしたそうでした。こんな名前でしたよ」
メモ用紙を人差し指でなぞりなにやら一人で納得している。
「えとこのクラスにですね。『神奈河 夏樹(かながわ なつき)』君という方がいると思うんですよね」
穏やかな笑顔がそんな事を穏やかな口調で聞き覚えのある名前を口にする。
「神奈河君、いませんか?」
……は?
僕?
二度目のそれを伴って、再び教室にざわめきが蘇(よみがえ)り始める。
そのうち、チラチラと僕に一瞥(いちべつ)が集まり無言のプレッシャーが僕をつつく。
…なんであの美人さん僕の名前を呼ぶんだ。
意味が、わからない。
「君がそうみたいだね」
混乱状態の僕を差し置いて桃東はまた僕の名前を呼んだ。