つまりは『鬼』が『彼女』に追いつく事は、伝承におけるイカロスが太陽に辿り着く程に無理で、そして愚かな夢想なのだ。


イカロスが地に墜ちるように、『鬼』もまた『彼女』から遠ざかっていく。


ーーならば私はさしずめ、太陽か。


ーーそんな大層なものになる気などないのに。


『彼女』は表情を変えず心の内で笑み。そしてほぼ無人となった中庭を駆る。


缶との間に障害物はもうベンチしかない。


朝露を含んだ冷たい風が心地良い。


勝者たり得る者だけが味わえる自然の祝福だ。


けれど『彼女』のその凛とした美しい、絹さえも嫉妬に狂うような白肌の美貌が映す表情は勝利に喜び、陶酔するものではない。


どこか、不快そうなそれだ。