【コメコン】オレんちの兄さん1






バン!


ゴン!


「いてっ!」




勢いよく開けた扉は兄さんの頭を直撃して、その痛みに兄さんが声を上げた。


外に出ると、兄さんは扉の前に座ったまま頭を擦っていた。


「アサヒ、お前なぁ……」

「何してんだよ、こんなとこで!」


兄さんの言葉を遮ってオレは声を荒げた。

マンションの廊下にオレの声が響く。




いつからここにいたのかとかなんで家に入らないのかとか、聞きたいことは山のようにある。

けどそれと同じくらい、胸がきゅうっと締め付けられて気を緩めたら涙を零してしまいそうだった。


見下ろす兄さんと視線がぶつかる。

先にその視線を外したのは兄さんで。


「いや、その……」

頭をポリポリと掻きながら言いにくそうにする。


「何、してんだよ……」

兄さんの言葉を促したオレの声は、心なしか震えていた。




「その……
 鍵、落としたみたいで、さ……」











……………………はぃ?




.



「どこ探してもなくて…。
 アサヒーって何回か呼んでみたけど返事ないし、仕方なくここで携帯のゲームしてたらいつの間にか寝ちゃってたよ。


 あ、はい、これ新聞」


微笑んでオレに新聞を差し出す兄さん。

いや、今はそんなもんより……




「…いつから?」

「え?」

意味が分からないといった感じで首を傾げる兄さん。


「いつからここにいるんだよ」

「うーん、一時前くらいかなぁ」


一時前って!!


「なんでチャイム鳴らさねんだよ」

「……あぁ!」

「なんで電話かけてこねぇんだよ」

「あ、ホントだなぁ!」




新聞を差し出したまま「アサヒ頭良いなぁ」とか感心してる兄さん。






携帯が見当たらないとか言って電話掛けてくるくせに、なんで鍵なくした時はかけてこれねぇんだよ。


なんでチャイム一つ鳴らすことに頭回らねぇんだよ。






バッカじゃねぇの。

バッカじゃねぇの、兄さん。

ふざけんな。

オレの、オレの………。




次々に浮かぶ兄さんへの罵倒。


でもそれを遥かに上回ったのは………




.







ボスッ。




「うわっ。ア、アサヒ?どうした?」


「バカ兄貴……。」




オレは差し出された新聞を通り越して、兄さんの首に抱きついていた。


タバコとお酒の臭いが残る髪。

いつもは嫌いな臭いなのに、その臭いが今日はどこか心地良く感じた。




「裸足で外に出てくるアサヒの方がバカだろう?」


的外れなことを言う兄さんに「ウッセーよ」と小さく言って、オレは抱きしめた腕に力を込めた。









言いたいことは、山のようにある。


でも、何か言おうとしたら、堪えている涙が溢れ出しそうで。


そんなことになったら、心配性の兄さんはきっと、狼狽えてしまうから。




だから今は……

今だけは。




兄さんが外泊しなかった安心を、思いっきり感じていたいとオレは思った。




.





容姿端麗。


頭脳明晰。


スポーツ万能。


仕事だって何でもこなすし、


オレみたいに人付き合いも下手じゃない。




そんな、誰もが羨むオレの兄貴。









だけどホントは、


一人でネクタイも結べない。


メールだってちゃんと打てない。


忘れ物だってしょっちゅうだし、


片付けだってろくにできない。


オレよりずっと年上なのに、


オレよりずっと頼りない。




そんな、ダメ男でダサ男。




なんでこんなのが兄貴なんだろう。


そんな風に、思わなくはない。






でも、それでも。




「あ、鍵あった」

「はぁ!?どこに!?」

「ズボンのポケットに。」

「全部探したんじゃなかったのかよ!?」

「鞄の中なら隅から隅まで探したんだけど…
ズボンにポケットがあることをすっかり忘れてたよ」

「……バカ兄貴っ!(心配して損した!!)」




どうしようもない兄貴なのに、
何故か憎む気になれなくて。


一緒にいると疲れるのに、
傍にいないと不安になる。




文句や愚痴を並べつつも、
ついつい兄さんの世話を焼いてしまうオレ。


そんなオレも、兄さんに負けず劣らずバカなのかもしれない。




.



――――――――――………
















「アサヒ」


「?」


「さっきからバカって言い過ぎだ。
……そんなに俺が心配だったのか?」


「っ…………!!/////
 心配、なんて……」









いつものオレなら瞬時に「心配なんてするかよっ」ってツッコむところ。




―――――――――だけど。









「っ、するに決まってるだろ!
 これ以上心配かけんな、バカ!!」




たまには“弟”らしく、素直になるのも悪くない。









差し出された新聞をもぎ取り、

朝特有の柔らかい日射しを浴びながら。




柄にもなく、オレはそんなことを思った。






 END



無事、完結いたしました☆

いやー、まさか自分が恋愛以外のジャンルを書く日がこんなにも早く来ようとは。


このお話を書くきっかけとなったのは、とある少年漫画でして。

それをきっかけに兄弟愛って良いなぁと思い、兄弟が主役の小説を書こうと決意しました。


でも、兄さんがここまでダメ男になるのは自分でも予想外だった←

そして弟がここまでツンデレ(正確にはツン×10デレくらい?)&ブラコンになるのも予想外だった←




終始ハチャメチャな感じでしたが、私的にはだいぶ思い入れがあり、気に入ってる作品です。

なので!!

勝手にシリーズ化しちゃいたいと思います☆


シリーズ第二弾は本作よりもギャグ要素少な目になりますが、その代わりアサヒのブラコンっぷりに拍車がかかります^^

おバカな兄貴とツンデレ弟の今後が気になる方は、ぜひ読みにいらしてください!

感想などいただけると、泣いて喜びます←


ではでは、また別の作品でお会いしましょう!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪




2009/12/03 あかり




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