「そうだ、チョコあげるよ。苺とキャラメルどっちがいい?」
「あ、ありがとう。じゃあ、苺」
おっとう。
――いつもお菓子を持ち歩いている。
確かそんな項目もあったけ……。
甘い味が口の中に広がった。
「あの」
「ん?」
「間宮くんって、彼女とかいないの?」
「え?」
出た。
またきょとん顔。
「いないよー」
あーよかった、
いないんだ。
しかしまたあのさっぱり笑顔だ。
しかも、なぜだ。
そこから恋愛話に発展しない。
歩ちゃんは?
って聞いてきてくれないし…。
やっぱりあたしなんか……
あ~~
いかんいかん!
マイナス思考になってる。
何か話題、話題!
「間宮くんって料理上手なんだね。よく作るの?」
「上手ではないけど、作るのはわりと好きかな」
「すごいね!何でも作れるの?」
「何でもってわけじゃないけど、基本的な料理は大体」
「そうなんだ。あたしなんて全然できなくて、
この前なんかね、
お母さんに教えてもらいながらカレー作ろうとしたんだけど、
ボーっとしてたら間違えて人参を千切りにしちゃってさぁ」
「千切り!?」
間宮くんは思い切り吹き出して爆笑した。
「わ、笑いすぎだよ~」
「ごめんごめん!でも、ものすごいカレーになりそうだね」
間宮くんは前かがみでお腹を押さえて、ひーひー笑いながらそう言った。
あ~
あたしったら、
自ら自分の株落としてどうすんのよ~!
でも。
楽しそうに大きな口で笑う間宮くんも好きだなぁ。
電車が来て、駅につくまでの間
あたしたちの話題が途切れることはなかった。
彼と別れて電車を降りた途端、また骨抜きだ。
“またね、歩ちゃん”
そう言って彼が笑って、手を振ってくれたから。
「あ~もう、いや。
無理。行きたくない。帰りたい」
周りからそんな負のセリフが行き交う朝。
駅の改札の前。
「え~今日から他の事は一切忘れて、思う存分勉学に励んでもらいたい」
今日から二泊三日。
高校一年生は勉強合宿なのだ。
場所はうちの高校が所有している合宿所で、
周りに遊ぶ場所などもなく、のどかな森と林しかない。
そんなに大きい建物でもないので
日を変えて1組2組3組、4組と5組と分かれて泊まることになっている。
そして今は駅でしゃがみ込んで、出発の前の連絡を聞いている所。
皆やる気がなく、
だらだらとした空気が漂う。
「は~、やだやだ。行きたくないよ~」
「そうねぇ。休みなしで勉強だもんねぇ」
そういう美優はけっこう成績がいい。
あたしの成績は大体平均くらい。
良くも悪くもない感じ…。
「でもさっ、ほら」
「へ?」
美優が楽しそうにあたしを左に向かせた。
そこには、
5組の列に混じった間宮くんがいた。
しゃがみながらも、思わず飛び上がるあたし。
そして美優がワルイ顔で言った。
「二泊三日、奴と一つ屋根の下だよ?」
「ひっ、一つ屋根の下!?」
そ、そうか。
そうだよね。
もう一度間宮くんを見ると、
先生の話を真面目に聞きながらも、大あくび。
そして首を一回りさせた。
「なんか楽しくなりそうだねっ」
「う、うん」
美優は何だかニヤニヤしちゃって楽しそう。
こやつ、さっきから…何か企んでる?
そう思ったのもつかの間、みんなが一斉に立ち上がりだした。
出発だ。
電車を乗り継ぎ、駅から森林の中を歩いて10分。
合宿所に到着した。
一時間後にクラスごとに学習室に集合になってるので
まずは自分達の泊まる部屋に向かう事に。
「うわぁ、何もない!」
畳に、押入れに、テーブルに、窓。
ものすごくシンプル。
本当に何もない。
テレビもないし。
トイレも部屋ごとにはついていない。
まぁ旅館とかとはワケが違うから、当たり前か。
全体的に丸い形の建物になっていて、こじんまりとした部屋が沢山並んでいる造りになっている。
だから部屋は二人で一部屋。
1組2組3組は人数が多いから、三人組だったらしい。
あたしはもちろん美優と一緒だ。
「あーもう一時間になる」
「はぁ、しょうがない。行こっか」
あたし達は教科書や問題集の入った手さげを持って、その部屋を出た。
勉強は勉強だけど、やっぱりいつもの授業とは雰囲気が違う。
とにかく時間が長く感じる!
窓の外は木々。
たまにみんながシンッと黙ると、鳥の鳴き声も聞こえた。
あたしはウトウトと問題集を開きながらも、
“間宮くんと一つ屋根の下”
というフレーズを何度も思い出して
一人でニヤケそうになるのだった。
夜。
「あ~気持ちいいね~~」
一時勉強はおやすみ。
お風呂でまったり気分転換だ。
少し熱いくらいのお湯がじわじわと疲れを取ってくれる。
「ねぇ、歩奈」
「んー?」
「告白しないの?」
「え、えっ!?」
美優はあたしが茹でダコになろうがお構いなしで続ける。
「ん?ん?」
「無理!
ていうか、まだそんな段階じゃないから…」
「そんな段階ってどんな段階よ?うかうかしてると誰かにとられちゃうよ?」
「うっ。でも間宮く…」
そう言い掛けて、周りをキョロキョロと見て
「あの人は草食系だから、みんなお友達みたいだし、しばらくは大丈夫なんじゃ…?」