研究室に二人で足を踏み入れると、
先生が
「おお、間宮が持ってきてくれたのか」
って。
―――間宮くん。
間宮くんって言うのか。
あたしは「じゃあね」って言って、颯爽と去っていく彼のうしろ姿に釘付け。
完全に惚れてしまったのでした。
その日からあたしは
気がつけば彼のことを考えていた。
あの笑顔とか、散らばった物を拾う大きな手とか
とにかく彼が忘れられなくて。
な、の、に
名前しか聞けなかった。
しかも自分の名前は名乗ってない…。
何やってんだ、あたし!
思わず壁に頭を打ち付けたくなるほどの自己嫌悪。
ところが、彼とはあれっきりなのかな…と諦めかけていた矢先、
新たな展開があたしを待っていた。
「えっ!敏也くんの友達なの!?」
「5組の間宮でしょ?確か敏也がよくつるんでるよ」
敏也くんとは、美優の彼氏だ。
「歩奈、もしかして気になるの?」
「えっあ…気になるっていうか…えっとぉ…」
その瞬間、美優に抱きしめられるあたし。
そんな二人の瞳はきらきら。
「協力する!」
美優!
心の友!
というわけで、敏也くんを通して、
間宮くんとの仲を取り持ってくれる事になったわけだ。
ああ!
世間はなんて狭いの!?
こんな狭い学校内で、世間も何もないけど
でも!
ありがとう!
神様!仏様!
美優様!
「おーい、こっちこっち~!」
「敏也ーっ」
二人の協力のおかげであたし達は中庭のベンチで待ち合わせて、一緒にお昼を食べようということになった。
美優と敏也くんとあたしと、
そして、間宮くん。
どうしよう!
緊張しすぎて、もう何が何だか分からなくなってきた。
最後の打ち合わせかのように、美優が小さく耳打ちしてくる。
「歩奈しっかりね!とりあえず友達にならないと」
「でも、どうしよう、無理だよぉ」
「何弱気になってんの!大丈夫だって。あたしらが話題つなぐからさ」
「うん…」
頼もしいけど、
今はその頼もしさが逆に心配……。
「あ」
美優が急に、素っ頓狂な声を出した。
「何?」
「あ、いや。
そういえば昨日敏也に電話で今日のこと頼んだ時ね、
最後に“ああ、でもアイツは…”って言ってたんだよね」
「えっ?アイツはって……何?」
「それがさぁ、すぐ電車きちゃったから、途中で切っちゃって」
「ええ!ちょっと何してんの、すごい気になるじゃん!」
「まぁたいした事じゃないでしょ。さ、早く行こっ!」
そ、そんなぁ!
“ああ、でもアイツは……”
アイツは、何なの~~~?
気になりまくる!
でも、もう迷ってる場合じゃない。
どんどん近づいてくるベンチには、もう二人が座って待っている。
ああもう、心臓が張り裂けそう!
ついに二人の元へ到着してしまった。
間宮くんだ。
あの時
優しく荷物を持ってくれた彼が、目の前に。
「あっ、この前の!」
「う、う、うんっ」
ちゃんと覚えててくれたんだ。
嬉しくて何ともしまりのない顔になってしまう。
いい感じのスタートだ!
と踏んだらしい美優と敏也くんは目を合わせて、あたし達を紹介し合った。
「この子、歩奈。ちょっと抜けてるけど、仲良くしてあげてね」
「歩ちゃん、こいつ間宮。よろしくな」
ちょっと抜けてるは余計だよ、美優!
って思ったけど、
今はそれもいたしかたあるまい。
間宮くんは笑って、よろしくって言ってくれた。
それだけでもうあたしは、倒れそうだ。
がははって笑う敏也くんと
正反対の間宮くん。
おっとり穏やかな雰囲気が、なんとも居心地いい。
「あ~腹減ったぁ、早く食おうぜ!」
敏也くんがお腹を抑えて仰け反ったので、あたし達はお昼を食べ始めることにした。
あたしと敏也くんは売店のパン
美優はコンビ二のサンドイッチを鞄から取り出す。
そして間宮くんも同じように自分の鞄からお昼ごはんを取り出した。
でもそれを見て
あたしは思わず目をぱちくりさせた。
「お弁当…?」
間宮くんが取り出したのは、手作りのお弁当だった。
ぱかっと蓋を開けると
色とりどりのおかずが並んでいた。
可愛くにぎられたおにぎり
かわいい串にささったうずらの卵とミニトマト。
小さなエビフライに、
星型にかたどられたニンジン、
などなど。
それはそれはラブリーで、美味しそうなお弁当だった。
あたしの頭に真っ先に浮かんだこと。
お母さん、かな?
それにしてはおかずが可愛らしいような…
まさか……
まさかっ、愛妻弁当~~!?
頭上から
“彼女”と書かれた岩が落ちてきて、
あたしの頭を直撃したような、そんな衝撃だった。
そんなぁ~~~!
敏也くん、もしかして
「ああ、でもアイツ…彼女いるよ?」
って言いたかったのかな?
「いただきます」
間宮くんがにこっと笑って、
丁寧に軽く手を合わせてからおかずを口に放った。
そして、「んー」と美味しそうに笑う。
もんもんとしているあたしの様子を悟ったのか、美優があわあわと間宮くんに問いかけた。