「心がないっつたって、涼だって遊びじゃん?」


「んー、まあそうだけどさぁ。でも涼を独り占めされるとか、ムカツクんだけど」


「あー、まぁね。てか、その肝心な相手は誰なのよ」


「確かに。誰なの?」


あたしはトイレのドアに張り付く勢いで、女の子達の会話を聞く。


そう、肝心なのは『誰』ということ。


「ああ、それね・・・」


トイレの中が異様な静けさに包まれた。


あたしの鼓動が、まだかまだかと早鐘のように打ち続ける。


誰、誰、誰?


「・・・・・・あたしも、分かんないんだよね~っ」


・・・は?


でも、話題提供者の女の子は、あたしの期待とは全く別の答えをあっけらかんと言い放った。


「どういうことよ」


張り詰めていた空気が、一気に緩む。


強張っていたあたしの体から、どんどん力が抜けていく。


「いや、あたしもなっちゃん達から聞いただけだからさ~。詳しいことは、まだ知らないんだよね」


あはは、と笑いながら言う彼女。


「何?やっぱりなっちゃん達の作り話じゃないの?」


「んー、そうなのかなぁ。まあ、あたしにとってはそっちの方が好都合だけど」


そう言いながら、数人の女の子達はトイレから出ていった。


あたしは気抜けして、個室の内側からドアにもたれかかった。


体とドアがぶつるガン、という音が、誰もいなくなったトイレに響く。


やっぱり、作り話なんじゃん・・・。


何であたしは彼女達の作り話にまんまと引っ掛かってたんだろう。


そんなわけ、あるはずないのに。